雨 Ⅰ

雨 Ⅰ

雷が鳴っている

今朝の天気予報は当たった

季節がまたひとつ変わる

ビルの合間から見える小さい窓の外を眺めながら

彼女は一人梅酒をソーダで割って 飲んでいた

「こんなフリーペーパーに載って・・・」

フッとため息をひとつつき マスターに向かって声をかけた

「この写真は 誰が撮ったの?」

「一緒に同席したフリーのカメラマンだよ」

「そう。。。さえないわ。。。」

雷鳴がひとつ聞こえる

「コーヒー飲まないのかい?」

「今はいいわ。。」

外のビルの壁に ときおり真っ白な光が走っていた

グラスの中の氷が カチッと 小さな音を立てた



あの日 向かい側の席にはこのグラスはあった

私の前には トールグラスにたっぷりと生クリームの乗った 冷たいココアがあった

他愛もない その日をなぞる会話が続いていた

映画を見て  ハンバーガーとオレンジジュースを買い

公園の芝の上で二人で食べた

イアリングを買いに 駅前の小さな路地に入り

3件目の髪を後ろに束ねた男性が手作りしている店で気に入ったものに出会った

そのまま窓ガラス越しに季節を眺めながら いつものこの店へと入った

「話し決まったよ」

「え・・おめでとう。。 良かったねぇ。夢が叶う?」

「いや・・ これからなんだ。」

「そうなの?」

「・・一緒に。。やってみないか?」



生クリームの乗った冷たいココア

飲むことはありえない 今の自分だったら

首を縦にも横にも降らずにいる

そんな 曖昧なこと ありえない  今の自分だったら

それから 1週間後

私は生クリームの解けた ココアの前に座ったままで

そのひとは 独り飛び立って行った

あの日と自分は まだ 答えを出していない

ここに独り残されたまま。



カチャ・・

突然目の前に白い湯気が立昇る

「そろそろ・・欲しいだろうと 思ってね」

「タイムリーだわ」

窓辺の雨に濡れる鉢植えの紫陽花を 窓越しに見つめて

彼女は珈琲を ひとくち口に含んでみた

雷が また ひとつ鳴った


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