雨 Ⅱ

雨 Ⅱ

鏡の中の彼女は 今にも泣きそうになっている

右腕のブレスレット時計に目をやり

小さなため息をついた

もう確実に間に合わない

電話をしなければ・・携帯電話に手を伸ばし

再び小さなため息をついた

「どうして こんな日に あの場所へ。。。」

朝から続く雨に 彼女の気持ちは閉口したままだった

観光地の小さな お寺で季節を楽しむ会を仕事がらみの女性グループに

参加を促されていた 

年齢の上の方ばかりなので 断る理由を得ることができず

いま・・この時間を迎えてしまっている


静かな庭に カメラのシャッター音が響く

「この花言葉 知ってる?」

「移り気。。?」

「うん」

「本当に七色に変わるのかな?」

「ごめん。。。心変わりをした。。。」

「え?・・・いま。。。?」


この花を彼に誘われるまま 見に来たのは間違っていた

私よりずっとずっと 彼のほうが 花を知っていた

彼のお祖母さんは華道家だった


今日は 洋館へ行きたいと 言うべきだった

甘い香りのする洋館へと。。。

そう思ったが もう遅かった

どんよりとした雲から 静かに雨が降り始め

彼と 私は道を別れた



鏡の中の彼女は

今日の予定を全てキャンセルした

今日は洋館へ行くべき日なのだと 彼女は思い直し

2両編成の電車の時刻表を手帳から取り出した

ふと 高台から モノレールに乗り

路面電車に乗り継ぐことを心に決めて 彼女は カメラバッグを手にして

部屋のドアを開いていった


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